「どうして、あの人は何度も同じ話ばかりするんだろう…」
「またナースコールが鳴ってる。正直、少しうんざりしてしまう…」
介護の現場やご家庭で、特定の高齢者の方の言動に、このように感じてしまった経験はありませんか。
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
しかし、その一見すると「わがまま」や「問題行動」に見える振る舞いの裏には、実はその方なりの切実な心の叫び、つまり承認欲求が隠されているのかもしれません。

この記事を読めば、なぜ高齢者の承認欲求が強くなるのか、その心理的な背景と原因が分かります。
そして、元介護職である私の10年以上の経験に基づいた、明日からすぐに現場や家庭で実践できる具体的な接し方のコツを知ることができます。
一人で抱え込まずに、まずはその方の心の内をそっと覗いてみませんか。
承認欲求が強くなる高齢者の心理と背景にある5つの原因
介護の現場にいると、特に承認欲求が強いと感じる高齢者の方に出会うことがあります。
「またあの人の対応か…」と、つい気が重くなってしまうこともあるかもしれません。
しかし、その行動の背景にある心理や原因を理解することで、私たちの見え方は大きく変わり、対応にも余裕が生まれます。
ここでは、なぜ高齢になると承認欲求が強くなる傾向にあるのか、その代表的な5つの原因を、私の経験を交えながら深掘りしていきます。

1. 役割の喪失と孤独感が生む「誰かに必要とされたい」心理
かつての「役割」を失うということ
人は誰でも、家庭や社会の中で何かしらの「役割」を担って生きています。
会社員、母親、地域の名士、頼れる職人。
そうした役割は、私たちに「自分は必要とされている」という実感、つまり自己有用感を与えてくれます。
しかし、定年退職や子育ての終了、あるいは身体的な衰えによって、長年担ってきた役割を少しずつ手放さざるを得なくなります。
私が以前勤めていた特別養護老人ホームに、いつも無口でホールの隅に座っている男性のAさんがいました。
現役時代は、大きな会社の部長として、多くの部下を束ねていたそうです。
しかし施設では、誰かに指示を出すことも、頼りにされることもありません。
その心の中に、ぽっかりと穴が空いてしまうのは想像に難くないでしょう。
孤独感が承認欲求を増幅させる
役割を失うことは、社会的な繋がりが希薄になることと直結し、深い孤独感を生み出します。
特に、配偶者との死別や、友人たちとの交流が減っていく中で、その孤独はさらに深刻化します。
「自分のことなど、誰も気にかけてくれない」
「私は、もう誰の役にも立たない存在なんだ」
こうした孤独感や無力感が、「誰かに認めてほしい」「自分の存在に気づいてほしい」という切実な承認欲求へと繋がっていくのです。
頻繁なナースコールや、些細なことでの訴えは、見方を変えれば「ここにいるよ、私を忘れないで」という、孤独の中から発せられるSOSサインなのかもしれません。
2. 心身の衰えが引き起こす「自己肯定感」の低下

「できなくなったこと」が増える現実
若い頃は当たり前にできていたことが、一つ、また一つとできなくなっていく。
これは、高齢者にとって非常に辛く、自尊心を傷つけられる出来事です。
例えば、
- 瓶の蓋が開けられなくなった
- 新聞の小さな文字が読みにくくなった
- 少し歩いただけですぐに息が切れてしまう
- 人の名前がなかなか思い出せない
こうした日常の些細な出来事の積み重ねが、「自分はもうダメだ」「しっかりしなくては」という焦りと共に、自分自身に対する肯定的な感情、つまり自己肯定感を少しずつ削り取っていきます。
私が有料老人ホームで働いていた頃、とてもプライドの高いBさんがいらっしゃいました。
Bさんは、職員の手を借りることを「情けないこと」だと感じていたようで、いつも「自分でできる」と意地を張っていました。
しかし、ある日、食堂で箸をうまく使えずに食事をこぼしてしまったのです。
その時の、悔しさと恥ずかしさが入り混じったBさんの表情は、今でも忘れられません。
この出来事以降、Bさんは些細なことで職員を呼びつけ、自分の知識をひけらかすような言動が増えました。
今思えば、それは傷ついた自己肯定感を守るための、必死の防衛反応だったのでしょう。
誰かに依存せざるを得ない葛藤
心身の機能が衰えれば、誰かの助けを借りなければ生活が成り立たなくなります。
しかし、人に頼ることは、それまでの自立した人生を送ってきた方にとっては、大きな葛藤を伴います。
「人に迷惑をかけたくない」という思いと、「でも、助けてもらわなければならない」という現実の狭間で、心は大きく揺れ動きます。
この葛藤が、素直に「ありがとう」と言えずに、わざと横柄な態度をとってしまったり、過剰な要求をしたりといった、複雑な行動として現れることがあるのです。
3. 「かまってちゃん」な言動に隠された高齢者の心理とは?
介護現場でよく聞かれる「かまってちゃん」という言葉。
少し皮肉な響きがありますが、この言葉で表現されるような行動の裏にも、切実な心理が隠されています。
何度も同じ話を繰り返したり、わざと気を引くようなことを言ったりする行動は、一体どこから来るのでしょうか。
その高齢者の心理を理解することが、対応の第一歩となります。

不安や寂しさの裏返し
「かまってちゃん」な言動の根底にあるのは、多くの場合、強い不安や寂しさです。
一人でいることへの恐怖、体調の変化への不安、将来への漠然とした不安。
そうしたネガティブな感情を自分一人で抱えきれなくなった時、誰かにそばにいてほしい、話を聞いてほしいという気持ちが行動として現れます。
訪問介護で担当していたCさんは、私が訪問するたびに「腰が痛い」「眠れない」と様々な不調を訴えていました。
もちろん、本当に辛い部分もあったでしょう。
しかし、よくよく話を聞いてみると、その訴えの多くは、日中誰とも話さずに一人で過ごしている寂しさに起因していることが分かってきました。
私に話を聞いてもらい、「それは辛いですね」「大変でしたね」と共感してもらうことで、Cさんは身体的な苦痛だけでなく、心の痛みも和らげていたのです。
つまり、Cさんにとっての訴えは、コミュニケーションのきっかけであり、不安を解消するための手段だったわけです。
自分の存在価値を確認したい
「すごいね」「さすがだね」と褒められたり、感心されたりすると、誰でも嬉しい気持ちになるものです。
高齢者、特に「かまってちゃん」な言動が見られる方は、この「他者からの評価」を通して、自分の存在価値を確認しようとする傾向があります。
過去の自慢話や武勇伝を何度も繰り返すのは、その典型的な例です。
「昔はこんなにすごかった自分」を語ることで、「今の自分」も価値のある人間だと認めてほしい、というメッセージが込められています。
一見、自己中心的に見えるその言動も、実は揺らいでいる自分の存在を必死で繋ぎ止めようとする、人間的な行為なのかもしれません。
4. なぜ?高齢者に見られる強い自己顕示欲と依存心

プライドの高さが自己顕示欲に繋がる
「自分は他の人とは違う」「自分は特別だ」という思い、いわゆる自己顕示欲が、高齢になってから強く現れることがあります。
これは、これまでの人生で築き上げてきたプライドや社会的地位が関係しています。
特に、社会的に高い地位にいた方や、一家の大黒柱として家族を支えてきた男性に、その傾向が見られることは少なくありません。
施設に入居してもなお、職員に対して命令口調になったり、自分のやり方を押し通そうとしたりするのは、かつての自分の姿を投影し、「自分はまだ終わっていない」と周囲にアピールしたいという気持ちの表れです。
この強い自己顕示欲は、裏を返せば「今の自分には価値がないのではないか」という不安の裏返しでもあります。
自分のすごさをアピールすることで、かろうじて心のバランスを保っている状態と言えるでしょう。
甘えたい気持ちとしての「依存心」
一方で、自己顕示欲とは正反対に見える依存心が強く現れるケースもあります。
何から何まで職員や家族にやってもらおうとしたり、常に誰かがそばにいないと不安がったりする行動です。
依存心の強い高齢者と接していると、「どうして自分でできることまでやらせようとするのか」と、ついイライラしてしまうこともあるでしょう。
しかし、この依存もまた、承認欲求の一つの形です。
人に何かを頼み、それに応じてもらうという行為を通して、「自分は受け入れられている」「気にかけてもらえている」という安心感を得ているのです。
それは、まるで幼い子どもが親に甘えるような、根源的な欲求に近いのかもしれません。
自立を促すことはもちろん大切ですが、その背景にある「甘えたい」「繋がりを感じていたい」という気持ちを理解してあげることが、関係作りの鍵となります。
5. 加齢による感情の揺れ動きと満たされない思い

脳機能の変化が感情のコントロールを難しくする
実は、承認欲求が強くなる背景には、心理的な要因だけでなく、加齢に伴う脳機能の変化も関係していると言われています。
特に、感情のコントロールや理性的な判断を司る「前頭葉」の機能が、年齢と共に少しずつ低下してくることが知られています。
これにより、
- 感情のブレーキが効きにくくなる(怒りっぽくなる、涙もろくなる)
- 欲求を我慢することが難しくなる
- 相手の気持ちを察することが苦手になる
といった変化が現れることがあります。
つまり、わがままに見える言動や、突然の怒りといった問題行動は、その方の性格が悪くなったわけではなく、脳の機能的な変化という、ある意味で不可抗力な側面もあるのです。
「あの人は、もともとそういう性格だから」と片付けてしまうのではなく、「年齢による変化なのかもしれない」という視点を持つだけで、私たちの心には少しだけ余裕が生まれるはずです。
満たされない思いが不満やクレームに
役割の喪失、自己肯定感の低下、孤独感、そして身体的な衰え。
これら様々な要因が絡み合い、高齢者の心の中には、言葉にしがたい「満たされない思い」が渦巻いています。
この満たされない思いのはけ口が、周囲の職員や家族への不満やクレームとなって現れることは、介護の現場では日常茶飯事です。
「食事がまずい」「部屋の掃除がなっていない」「あの職員の態度が気に入らない」
こうしたクレームの一つ一つに対応していると、心身ともに疲弊してしまいます。
しかし、その言葉の裏にある「もっと私のことを見てほしい」「もっと大切に扱ってほしい」という本当のメッセージを読み解くことができれば、対応は変わってきます。
これは決して、何でも言うことを聞くということではありません。
問題の表面だけを見るのではなく、その根源にある「満たされない思い」、つまり承認欲求に目を向けることが、解決への最も確実な一歩となるのです。
承認欲求が強い高齢者への実践的な対応と接し方のコツ
さて、ここまで承認欲求が強くなる高齢者の心理的な背景について詳しく見てきました。
原因が分かったところで、次に知りたいのは「じゃあ、具体的にどうすればいいの?」ということですよね。
ここからは、私が10年以上の介護現場で試行錯誤しながら身につけてきた、承認欲求が強い高齢者への実践的な対応方法と、すぐに使える接し方のコツをご紹介します。
理想論だけではなく、忙しい現場でも実践できる現実的なアプローチを中心にお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

1. まずは試したい基本の対応「傾聴」と「受容」の重要性
ただ聞くのではない、「聴く」ということ
対応の基本として、まず何よりも大切なのが「傾聴」の姿勢です。
「傾聴」は、ただ単に相手の話を聞く(Hearing)のではありません。
相手の心に耳を傾け、全身で真摯に聴く(Listening)ことです。
忙しい業務の中では、つい「ながら聞き」になってしまいがちですが、承認欲求が強い方に対しては、これが逆効果になることも少なくありません。
「この人は、私の話を真剣に聞いてくれていない」と感じさせてしまうと、さらに要求がエスカレートする可能性があるからです。
ほんの少しの時間で構いません。
「あなたのために、今、私は時間を使っています」というメッセージが伝わるように、以下の点を意識してみてください。
- 作業の手を一度止める
- 相手の目を見て、体を相手の方に向ける
- 「うん、うん」「それで?」と相槌を打つ
- 相手の言った言葉を繰り返す(「〇〇だったんですね」)
たったこれだけでも、相手に与える印象は全く違います。
「この人は自分の話を聞いてくれる」という安心感が、その方の心を少しずつ満たしていくのです。
否定しない「受容」の姿勢
傾聴とセットで重要になるのが「受容」です。
これは、相手の言うことを何でも肯定する「同意」とは違います。
たとえその話の内容が事実と違っていたり、明らかに理不尽な要求だったりしたとしても、「あなたは、今そう感じているのですね」と、まずはその感情や訴えそのものを、一旦まるごと受け止める姿勢のことです。
例えば、「食事がまずくて食べられない!」という訴えがあったとします。
ここで、「そんなことありませんよ、栄養士さんが考えた美味しい食事ですよ」と事実で返してしまうのはNGです。
これは相手の感情を否定することになり、対立を深めるだけです。
そうではなく、「〇〇さんのお口には、今日の食事は合わなかったのですね」「まずいと感じられたのですね」と、まずは相手の「まずいと感じた」という感情を受け止めます。
その上で、「ちなみに、どのあたりがお口に合いませんでしたか?」と具体的に聞いていくことで、相手は「自分の気持ちを分かってくれた」と感じ、冷静さを取り戻しやすくなります。
この「傾聴」と「受容」は、あらゆるコミュニケーションの土台です。
これを徹底するだけでも、多くの問題行動は改善に向かう可能性があると、私は経験上感じています。
2. 【場面別】「かまってちゃん」な利用者への上手な関わり方
いわゆる「かまってちゃん」と呼ばれる利用者の方への対応は、多くの介護職員が頭を悩ませるポイントです。
ここでは、私が実際に経験した場面を例に、具体的な関わり方のコツをご紹介します。

ケース1:頻繁なナースコールや用件の訴え
「ティッシュを取って」「テレビをつけて」など、自分でできるはずのことでも頻繁にナースコールで呼びつける。
これは典型的なパターンです。
この場合、毎回すぐに対応していると、相手の依存心を強めてしまう可能性があります。
かといって無視するのは絶対にNGです。
ポイントは「応える前に、一呼吸置く」ことです。
コールがあったらすぐに駆けつけつつも、「どうされましたか?」と用件を聞いた後、「分かりました。今、〇〇さんの対応が終わったらすぐに来ますので、少しだけお待ちいただけますか?」のように、すぐには行動せず、少しだけ時間を置くのです。
そして、待ってくれたことに対して「お待たせしました。待っていてくださって、ありがとうございます」と感謝を伝えます。
これを繰り返すことで、「呼べばすぐ飛んでくる」という学習を防ぎ、「少し待つ」という習慣と、待てたことによる達成感(自己有用感)を育むことができます。
ケース2:同じ自慢話や昔話を何度も繰り返す
これも「あるある」ですね。
話の結末まで分かっている話を何度も聞かされるのは、正直しんどいと感じることもあるでしょう。
しかし、これもその方の承認欲求を満たす絶好の機会と捉えることができます。
ポイントは「初めて聞いたかのように、新鮮なリアクションをする」ことです。
そして、ただ相槌を打つだけでなく、「その時、どうされたんですか?」「それはすごいですね!」のように、具体的な質問を投げかけるのが効果的です。
質問をされることで、相手は「自分の話に興味を持ってくれている」と感じ、満足度が高まります。
毎回全力で付き合う必要はありません。
「この話になったら、この質問をしよう」と自分の中でパターンを決めておくと、少し気持ちが楽になりますよ。
3. 依存心の強い高齢者への適切な対応と距離感の保ち方

「やってあげる」ことだけが優しさではない
依存心の強い高齢者の方を前にすると、つい何でもやってあげたくなってしまうかもしれません。
しかし、過剰な手助けは、本人が持っているはずの能力(残存能力)を奪い、ますます依存を強くしてしまう危険性があります。
本当の優しさとは、本人の「できる力」を信じ、自立を促す関わりをすることです。
そこで重要になるのが、「どこまで手伝い、どこからは本人にやってもらうか」という線引きを明確にすることです。
例えば、着替えの介助であれば、「袖に手を通すところまではお手伝いしますね。最後のボタンをかけるのは、ご自身でやってみましょうか」というように、具体的な役割分担を提案します。
そして、本人ができたことに対しては、「すごい、ちゃんとボタンがかけられましたね!」「さすがです!」と、少し大げさなくらいに褒めて承認します。
この「小さな成功体験」の積み重ねが、本人の自信と「自分でやりたい」という意欲を引き出し、過度な依存から脱却するきっかけになるのです。
チームで関わり方を統一する
こうした対応で非常に重要なのが、職員や家族など、関わる人全員で対応方針を統一することです。
ある人は自立を促す関わりをするのに、別の人は何でもやってあげてしまう、という状況では、ご本人が混乱してしまいます。
「Aさんはやってくれるのに、Bさんは冷たい」といった、特定の職員への不満や、職員間のトラブルにも繋がりかねません。
「〇〇さんの着替えについては、この部分を本人にやっていただく、という方向で統一しましょう」といった情報を、カンファレンスや申し送りで確実に共有し、チームとして一貫した対応を心がけることが不可欠です。
4. やってはいけないNG対応|無視すると問題行動は悪化する?
ここまで、肯定的な関わり方についてお話ししてきましたが、逆に「これだけはやってはいけない」というNG対応についても触れておきます。
一番やってはいけないこと、それは「無視」です。

忙しさのあまり、あるいは意図的に「老人のかまってちゃんは無視するのが一番」と考えて、その方の訴えや存在そのものをないものとして扱ってしまう。
これは、最も相手の尊厳を傷つける行為です。
承認欲求が満たされないどころか、完全に否定されるわけですから、その方の心の傷は計り知れません。
結果として、どうなるでしょうか。
- さらに大きな声で叫んだり、物を叩いたりして注意を引こうとする
- 他の利用者への暴力や暴言といった、より深刻な問題行動に発展する
- 職員や家族への不信感を募らせ、心を閉ざしてしまう
- 生きる気力を失い、うつ状態になる
このように、無視は問題を解決するどころか、より深刻な事態を招く引き金になります。
どんなに些細な訴えであっても、「聞いていますよ」というサインを送ること。
たとえすぐに対応できなくても、「後で必ず来ますからね」と一言声をかけること。
そのわずかな関わりが、最悪の事態を防ぐための防波堤になるのです。
5. 「家族に嫌われる老人」にしないための周囲の関わり方
この記事を読んでくださっている方の中には、介護職員だけでなく、ご自身の親御さんとの関係に悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。
承認欲求が強い親の言動に振り回され、「このままでは親を嫌いになってしまいそう…」と感じている方もいるでしょう。
家族という近い存在だからこそ、感情的になりやすいものです。
しかし、少し関わり方を変えるだけで、関係性は大きく改善する可能性があります。
「家族に嫌われる老人」という悲しい結末を迎えないために、家族だからこそできる関わり方のヒントをいくつかご紹介します。

小さな「役割」をお願いする
社会的な役割を失ったことが承認欲求の一因であるならば、家庭内で新しい役割を持ってもらうのが非常に効果的です。
「お父さんの淹れるお茶は美味しいから、お願いできる?」
「この野菜の皮むき、お母さんの方が上手だから頼んでもいい?」
どんなに小さなことでも構いません。
「自分はまだ家族の役に立てる」「必要とされている」という実感が、その方の自己肯定感を高め、過剰な要求を減らすことに繋がります。
「ありがとう」を言葉にして伝える
家族だからこそ、つい「言わなくても分かるだろう」と省略してしまいがちなのが、感謝の言葉です。
「いつもありがとう」
「〇〇してくれて、助かったよ」
この一言があるかないかで、相手の心の満たされ方は全く違います。
特に、今まで一家の大黒柱として「ありがとう」と言われることの少なかった父親世代は、素直な感謝の言葉に弱いものです。
少し照れくさいかもしれませんが、意識して言葉にして伝えるようにしてみてください。
完璧な介護を目指さない
最後に、最も大切なことです。
それは、一人で抱え込まず、完璧を目指さないことです。
親の承認欲求をすべて満たしてあげようと頑張りすぎると、あなた自身が疲弊し、共倒れになってしまいます。
時には距離を置くことも必要です。
デイサービスやショートステイといった介護サービスを上手に利用し、意識的に「離れる時間」を作ることは、決して親を見捨てることではありません。
それは、あなたがあなた自身の心を守り、再び穏やかな気持ちで親と向き合うために必要な、戦略的な休息なのです。
あなたの心が健康であってこそ、良い親子関係を築くことができるということを、どうか忘れないでください。
ちなみに、デイサービスやショートステイといった介護サービスは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう支援する「地域包括ケアシステム」という考え方に基づいて整備されています。
国としても、こうした社会参加や生きがいづくりを推進していますので、より詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
まとめ:「承認欲求が強い高齢者」との向き合い方
今回は、一見すると「わがまま」や「問題行動」に思える言動の裏にある、承認欲求が強い高齢者の心理と、その具体的な対応法について掘り下げてきました。
その行動の根底にあるのは、多くの場合、退職や心身の衰えによって生じる役割の喪失感や自己肯定感の低下、そして何より深い孤独感です。
頻繁な訴えや同じ話の繰り返しは、「ここにいるよ」「私のことを見て」という、その方なりの切実なSOSサインなのかもしれません。
対応の最も重要な基本は、相手の言葉や感情を否定せずに、まずは「そう感じているのですね」と一度受け止める「傾聴」と「受容」の姿勢です。
その上で、小さな役割をお願いしたり、できたことを具体的に褒めたり、「ありがとう」という感謝の言葉を伝えたりすることで、その方の心は少しずつ満たされていきます。
もちろん、すべてを完璧にこなす必要はありません。
一人で抱え込みすぎず、時には介護サービスなどを利用して、ご自身の心を守ることも忘れないでください。
あなたの心が少しでも穏やかでいられること。
それが、巡り巡ってご本人との良好な関係に繋がり、結果的にその方の心の安定にも繋がるはずです。
この記事が、明日からのあなたの一歩を少しでも軽くする、そんなきっかけになれば幸いです。
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